また何かそして別の聴くもの

だらだら坂から - 日々のヴァラエティ・ブック

まるで僕らはエイリアンズ

今朝、フジテレビのトーク番組「ボクらの時代」に稲川淳二さんが出ていた。所謂「怪談」の語り手需要は、令和になっても安定しているのだろうか。子供たちがまだ小さい頃、「ほんとにあった怖い話」とか「耳袋」とかを、家族でワーキャー叫びながら楽しんだものだが、子供の成長とともに全く観なくなってしまった。
そもそもホラーや悪霊ものなどより、じぶんはもっと日常にフォーカスした、ヘンテコな恐怖話が好きなのであった。
穂村弘氏の「愛の暴走族」というエッセイ。仲間から不思議な思い出が次々と語られ、結果的にそれらは、恋愛相手の嫉妬がもたらした意思表示だったのでは、と一応のオチはツクのだが、震撼するのがその手段だ。

私もいつだったか、部屋のなかにシャボン玉が浮いてたことがある。読んでた本から目を上げたら、いくつもふわふわ浮いてたの。あとから考えると、たぶんドアの郵便受けから吹き込んだんじゃないか、と思うんだけど。最初は子供の悪戯かなと思って。でも、どうも別れた恋人だったみたい。仲良かった頃、一度だけいっしょにシャボン玉したんだよね。ラフォーレんとこの歩道橋の上で。(愛の暴走族 / 穂村弘)

独りくつろいでいる部屋に、もしもゆっくりとシャボン玉が流れ飛んできたとしたら。
怪談の季節である。
の書き出しで始まる、安田謙一さんのエッセイ「なんでわかった?」も大好きだ。そして怖い。

確か「笑っていいとも」で、(たぶん)森脇健児が体験談(!)として語っていたのだが、ある日、森脇が街を歩いていたときのこと、前から来る男がどうも、なんだか、なんとなくおかしい。どこがおかしいと明確に判断させる根拠はないのだが、その男はなんかヘンだと森脇に違和感を抱かせるのである。そして、その男はすれ違いざま、「なんでわかった?」と言い残して消えた。 (安田謙一 / ピントがぼける音(P.29))

語り手、森脇健児氏(笑)。この絶妙なキャスティングが素晴らしい。なによりこの話をフックアップした安謙さんが素晴らしい。
この男の正体が、幽霊なのか、エイリアンなのか、最後までわからないのがよい。なのに、確かに漂う変な感じ。ああ、やっぱり怖い。語り手が森脇健児という役者不足を補ってあまりある、いい怪談だと思う。