前田さんなんてウチにはいない。
先日、マツキヨで買い物をしていると、SMAPの『BANG! BANG! バカンス!』が店内に流れ出した。いやー夏だなー、と感じたのも束の間、なぜ今この曲?、に気持ちがすぐ移行した。
男前だね木村くん
当たり前だよ前田さん
前田さんなんて ウチには いない
母親とその娘さんらしい二人組のお客が、前田さんなんて♪、の箇所を息ピッタリに歌声を併せていた。そう、あの、キムタクのソロ・パート、あの、コミカルに崩した歌い方で。
その瞬間、きっと夢じゃない、じゃなくて、その瞬間、この楽曲に感じていた違和感を、ひととき思い起こすことになった。
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発売当時から抱えていたその違和感、こうして今もモヤモヤしてしまう原因は、私の場合はずばり、その歌詞にあった。
── これは極めて個人的な捉え方であり、楽曲を貶める目的では決してありません。
ご存知、『BANG! BANG! バカンス!』は、2005年にリリースされたSMAP、37枚目のシングルである。作・編曲は、SMAP常連のコモリタミノル氏。彼らのヒストリーの中でも、初期の代表曲と言える『ダイナマイト』や『SHAKE』、『たいせつ』なども氏の作曲だ。
本作も過去曲同様、まさにコモリタ印のシンセの音色やChorus、アーバンなマイナー7thコードを多用した4つ打ちボトムの佳曲で、2005年版アイドルポップの雛形とも言っても過言ではないと思える。(ちなみに、2019年版アイドルポップの最高峰は、嵐『Turning Up』であると思う)
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一方、意外にも(意外ではないか)作詞は、クドカンこと宮藤官九郎氏が手掛けている。「池袋ウエストゲートパーク」でのTOKIOなど、ジャニーズとの接点による起用なのであろうか。
1番のヴァースは、主人公が結局ウダウダ言ってただけの一昨年の夏を回想する描写である。このシチュエイション、じぶんの世代だと、すぐに思い浮かぶのがスチャダラパーのナツ・クラシック『サマージャム'95』である。大半の男子が経験済みと思われる、いわゆるイケイケな夏とは程遠い、うだうだ過ぎていっただけの夏と、その回想。
『BANG! BANG! バカンス!』は、それではイカンと、タイトルにもなったキャッチーなサビが盛り上げていく構造だ。(そのキャッチーなサビはやはり曲先だったそうである)
そこに問題の2番の歌詞が出現する。
男前だね木村くん
当たり前だよ前田さん
前田さんなんて ウチには いない
うだうだしていた無名の主人公の夏物語が、香取慎吾→草なぎ剛→木村拓哉のソロリレーによるこの歌詞により、突如、SMAP版ミュージカルともいえる世界観に変貌するのである。ここで一気に楽曲はテーマである夏のストーリーから乖離していく。
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「当たり前田のクラッカー」は、60年代のコメディ時代劇「てなもんや三度笠」で、藤田まことが番組オープニングに使ったキャッチフレーズであり、スポンサーであった前田製菓の商品名だ。所謂昭和の「一発ギャグ」である。
時は2005年、この明らかに故意なアナクロニズムの採用は何故に。
そして再び、バイクの免許ほしいな♪、と夏の計画シーンに戻るのだが、ダメ押しの内輪ネタが炸裂する。
稲垣って名字の半分は
ガキ ガキ ガキ
以降、歌詞は、バカンスとバカ、その二つの記号を行ったり来たりするのだが、果たしてこの主人公が、実際に夏を謳歌しているのか、妄想しているのかは、最後まではっきりせぬままだ。
それにしても、この薄ら寒い劇中劇は何故インサートされたのだろうか?プロダクション側からの要請であったのだろうか?
とはいえ、「世界で一つだけの花」以降の作品である。国民的スターの座も確立した当時の(そして今でも)巨大なファンダムは、内輪ネタも大歓迎であったであろう。
ただ、全編、夏の欲望と妄想で統一すれば、令和のティーンの耳にも耐えうる、Jポップ版『サマージャム』に成り得たのにと、ナツウタ好きには残念でならないのである。まったく、大きなお世話、ですね。
兎にも角にも、うだうだどころでは済まされない、国難の今夏に比べれば、2005年の夏は悔しいほど眩しい。
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ちなみに作曲家で選ぶ私のSMAPベストソングは以下のとおりです。
・真夏の脱獄者(椎名林檎)
・ココニイルコト(スガシカオ)
・アマノジャク(川谷絵音)
・ココロパズル(中田ヤスタカ)
・Magic Time(山口一郎)
・Swing(西寺郷太)
・掌の世界(凛として時雨)
・退屈な日曜日(横山剣)
・愛がないと疲れる(岩田雅之)
・クイズの女王(小西康陽)