また何かそして別の聴くもの

だらだら坂から - 日々のヴァラエティ・ブック

我が名はグルーヴィー

あっという間に8月が去って、9月がはじまった。結局、去年よりもひどい8月だったような。じぶんにとっても、世界にとっても。

色々大変だったはずの一昨年がとても愛おしい。フィリップ・K・ディック風に言うと、去年を待ちながら、ではなく、一昨年を待ちながら、である。待ちたい。

みなと元町あたりを歩く機会があったので、知る人ぞ知る焼き菓子のお店「グルービーベイカーズ」を覗いてみると、張り紙がしてあり、所用により臨時休業とのこと。残念。これで三度目ぐらい。つくづくココとは相性が悪い。でもまた来よう。

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グルーヴィー、で思い出したピチカートを久しぶりに聴く。「ボサ・ノヴァ2001」を。2006年再発リリース盤の音(COCP-50894)を聴いてなかったことに気付いたのだった。

「我が名はグルーヴィー」は1967年、ノーザン・ソウルの名曲、Jay And The Techniques 「Strawberry Shortcake」ネタですね。

その歌詞のとおり、楽しすぎてブルーになる一曲。小西さんお得意のペシミズムも、最後に顔を覗かせる。好きだ。

本アルバムのプロデューサーも努めた、小山田圭吾が弾くギター・カッティングもサイコーだ。(このギター、小山田氏じゃなかったっけな?)

いちご畑でつかまえて、な「ストロベリイ・スレイライド」も、モンキーズっぽいキーボード・リフでレイト60'sなテイスト。

そうだ、今日は苺のショートケーキで鬱憤を晴らそう。決まり。

前田さんなんてウチにはいない。

先日、マツキヨで買い物をしていると、SMAPの『BANG! BANG! バカンス!』が店内に流れ出した。いやー夏だなー、と感じたのも束の間、なぜ今この曲?、に気持ちがすぐ移行した。

男前だね木村くん
当たり前だよ前田さん
前田さんなんて ウチには いない

 母親とその娘さんらしい二人組のお客が、前田さんなんて♪、の箇所を息ピッタリに歌声を併せていた。そう、あの、キムタクのソロ・パート、あの、コミカルに崩した歌い方で。

その瞬間、きっと夢じゃない、じゃなくて、その瞬間、この楽曲に感じていた違和感を、ひととき思い起こすことになった。

発売当時から抱えていたその違和感、こうして今もモヤモヤしてしまう原因は、私の場合はずばり、その歌詞にあった。

── これは極めて個人的な捉え方であり、楽曲を貶める目的では決してありません。

ご存知、『BANG! BANG! バカンス!』は、2005年にリリースされたSMAP、37枚目のシングルである。作・編曲は、SMAP常連のコモリタミノル氏。彼らのヒストリーの中でも、初期の代表曲と言える『ダイナマイト』や『SHAKE』、『たいせつ』なども氏の作曲だ。

本作も過去曲同様、まさにコモリタ印のシンセの音色やChorus、アーバンなマイナー7thコードを多用した4つ打ちボトムの佳曲で、2005年版アイドルポップの雛形とも言っても過言ではないと思える。(ちなみに、2019年版アイドルポップの最高峰は、嵐『Turning Up』であると思う)

一方、意外にも(意外ではないか)作詞は、クドカンこと宮藤官九郎氏が手掛けている。「池袋ウエストゲートパーク」でのTOKIOなど、ジャニーズとの接点による起用なのであろうか。

1番のヴァースは、主人公が結局ウダウダ言ってただけの一昨年の夏を回想する描写である。このシチュエイション、じぶんの世代だと、すぐに思い浮かぶのがスチャダラパーのナツ・クラシック『サマージャム'95』である。大半の男子が経験済みと思われる、いわゆるイケイケな夏とは程遠い、うだうだ過ぎていっただけの夏と、その回想。

BANG! BANG! バカンス!』は、それではイカンと、タイトルにもなったキャッチーなサビが盛り上げていく構造だ。(そのキャッチーなサビはやはり曲先だったそうである)

そこに問題の2番の歌詞が出現する。

男前だね木村くん
当たり前だよ前田さん
前田さんなんて ウチには いない 

 うだうだしていた無名の主人公の夏物語が、香取慎吾草なぎ剛木村拓哉のソロリレーによるこの歌詞により、突如、SMAP版ミュージカルともいえる世界観に変貌するのである。ここで一気に楽曲はテーマである夏のストーリーから乖離していく。

「当たり前田のクラッカー」は、60年代のコメディ時代劇「てなもんや三度笠」で、藤田まことが番組オープニングに使ったキャッチフレーズであり、スポンサーであった前田製菓の商品名だ。所謂昭和の「一発ギャグ」である。

時は2005年、この明らかに故意なアナクロニズムの採用は何故に。

そして再び、バイクの免許ほしいな♪、と夏の計画シーンに戻るのだが、ダメ押しの内輪ネタが炸裂する。

稲垣って名字の半分は
ガキ ガキ ガキ 

 以降、歌詞は、バカンスとバカ、その二つの記号を行ったり来たりするのだが、果たしてこの主人公が、実際に夏を謳歌しているのか、妄想しているのかは、最後まではっきりせぬままだ。

それにしても、この薄ら寒い劇中劇は何故インサートされたのだろうか?プロダクション側からの要請であったのだろうか?

とはいえ、「世界で一つだけの花」以降の作品である。国民的スターの座も確立した当時の(そして今でも)巨大なファンダムは、内輪ネタも大歓迎であったであろう。

ただ、全編、夏の欲望と妄想で統一すれば、令和のティーンの耳にも耐えうる、Jポップ版『サマージャム』に成り得たのにと、ナツウタ好きには残念でならないのである。まったく、大きなお世話、ですね。

兎にも角にも、うだうだどころでは済まされない、国難の今夏に比べれば、2005年の夏は悔しいほど眩しい。

ちなみに作曲家で選ぶ私のSMAPベストソングは以下のとおりです。

・真夏の脱獄者(椎名林檎)

・ココニイルコト(スガシカオ)

・アマノジャク(川谷絵音)

・ココロパズル(中田ヤスタカ)

・Magic Time(山口一郎)

・Swing(西寺郷太)

・掌の世界(凛として時雨)

・退屈な日曜日(横山剣)

・愛がないと疲れる(岩田雅之)

・クイズの女王(小西康陽)

マラソンをさぼる。

昨日もぼんやりと24時間テレビを眺めていた。昨年に引き続きのコロナ禍での強行に、今年も辛辣な内容のツイートが目立つ。いや、コロナ前からも、やれ「感動ポルノ」とか、「見世物小屋」とか、言われたい放題の番組ではある。恒例のマラソンも、途中でタクシー移動しただの、ワープしただの(笑)、きな臭い噂も絶えない。じぶんもかつては批判組寄りの考え方だった。

ある日、実家近くの障害者施設に、24時間テレビ寄贈の福祉車両が止まっていたのを見かけ、こんな片田舎にもとすこし驚いた。また、偶然に観た、ある難病の兄弟のVTRに、じぶんでも驚くほど大号泣してしまったこともある。本当に涙が止まらなくなって困った。偽善だ何だという批判そのものからは、これほどの涙は生まれない。

そんなこんなで、いつの間にやら、(正直、時々流し観ではあるが) 毎年欠かさず、家族で24時間テレビを観るようになった。

歳を重ね、だんだんと涙脆くなっているせいでもあるのだろう。だからといって、日々感動を欲しているわけでもないし、愛が地球を救える、とも決して思わないが、どんな形であれ、人のために行動する、という行為は称賛に値すると思う。

君は人のために死ねるか」と歌ったのは杉良太郎だが、君は出演者と同じように頑張れるか?と問われても到底無理であろう。

とは言え、「負けないで」が歌われる時間帯のトホホ感は、今年も予定調和的に押し寄せてきた。

惰性と感動が一緒くたの、夏の終わりを告げる風物。我が家にとってはそういう位置づけの番組だ。それは「鳥人間コンテスト」も同じ。番組が終わってしまうときっと寂しいはず。

自堕落な生活から一念発起し、ジョギングウェアやランニングバッグ、シューズなど一式を揃え、さあ今日から走るぞと意気込んだ日から僅か2日でリタイヤした昨年の夏。グッズを買い集める日々が一番楽しかった、と振り返った際の妻の冷めた瞳たるや。今それら一式は、部屋の片隅のハンガー・ポールに寂しく吊るされている。よく考えれば、そんな人間に「24時間テレビ」を語る資格など全くないのであった。

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今日のおやつは、焼き立てパン トミーズのきなこドーナツ。またも始まった一週間の景気づけに。

日曜日の印象

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街行く人が着ている黄色いTシャツが、チャリティTシャツに見える日曜日。朝から新刊書店をうろうろ。新潮文庫の100冊、今年のプレミアムカバーに見とれてしまう。同時にまたも、紙の本の未来、みたいなことをぼんやり考えた。

小さいお子さんを連れた若いご夫婦、奥様がご主人に「病院の検査がわかる本」みたいな分厚い一冊を「これ買おう」と差し出していた。うん大事。

ブックオフで文庫本を買う。

吉田篤弘「金曜日の本」(中公文庫)、吉田篤弘フジモトマサル「という、はなし」(ちくま文庫)、古書ミステリー倶楽部 (光文社文庫)、ナンシー関「何をいまさら」(角川文庫)、井上ひさしベスト・エッセイ(ちくま文庫)、穂村弘「絶叫委員会」(ちくま文庫)、村上春樹,、安西水丸「ランゲルハンス島の午後」(新潮文庫)、横溝正史「獄門島」(角川文庫)、おしまいのページで (文春文庫)、もの食う話 (文春文庫)。すべて110円。

雨が降る降るとスマホアプリに言われ、今日も洗車をあきらめる。自粛自粛と偉い人に言われ、帰省もあきらめた。気象異常と疫病のせいで、小さな「あきらめ」がなおも続く。もう夏も終わってしまう。

そしてこれは「あきらめ」とは異なる感情ではあるが、オリンピックのコーネリアス問題以降、なぜか音楽を聴く気が薄れてしまった。なんとかしなければ。

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今日のおやつは、遠く北海道札幌「アゾル」のドーナツ。シンプルなプレーン味が一番好み。懐かしさと新しさの食感マジック。うまー。幸せ。

土曜の夜と一様の麻

少し迷ったが、仕事帰りにまた三宮で途中下車してしまう。予想通りというか、予想以上の人いきれ。本当にどうしたものか。1時間で引き上げようと自分に言い聞かせる。

ジュンク堂書店三宮店で、近田春夫筒美京平 大ヒットメーカーの秘密」(文春新書)を購入。楽しみにしていた一冊だが、「定本 気分は歌謡曲」を知っている身には、やや残念なその「薄さ」。新書だし、インタヴュー形式なので、その限界点は重々承知の上で、もうあと少しだけ、情報量をプラス出来たのではないかと。とはいえ、いま京平さんをサウンド面で(正確に) ”語れる” のは小西さんと近田さんだけ。ファンはあれこれ望んでしまうものなのです。

三宮定番のパン屋さん、カスカードさんプラザ本店で、モルトくるみパン、みなとエッグタルト、紫芋のサータアンダギーを買って満足。家族に呆れられるほど、毎日パンばかり買っている。夏のパンまつり。白いお皿は要りませんので。

ブックオフで、川嶋康男「いのちの代償 山岳史上最大級の遭難事故の全貌!」(ポプラ文庫)を購入。110円。山岳系ノンフィクションには昔から目がない。羽根田治ヤマケイ文庫のドキュメントシリーズとか。本格的登山など、この先たぶんやらない(やれない)だろうけど、ここまで山岳モノに惹かれるのはなぜなのか。昭和には登山ブームがあって、山岳ミステリーの名作が沢山あった。全編ドキドキしっぱなしの清張さんの「遭難」とか。

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無印良品で「リヨセル麻まくらカバー」を買う。もう何年も寝具は無印のものばかり。なかでもこのリヨセル麻シリーズはひんやりした肌触りがよい。リヨセルって、ユーカリを特殊溶剤で溶かして作られる再生繊維らしい。その繊維と麻の混紡製品。掛け布団カバー、ボックスシーツ、敷きパッド、今年はすべてこのリヨセル麻で統一している。それでも寝苦しい夜はまだまだ続きそうだが。

さくらーふぶーきのー♪

我が家では「24時間テレビ」が夏の終わりのサイン。風あざみ。心の中の夏模様がゆっくりと剥がれ落ちてゆく。来年こそはいい夏になりますように。

金曜日のダウンタウン

お前の番号で着信が残っていた、と母から電話があった。いや、かけてないよ、と言いながらチェックすると、発信履歴に母の番号がたしかに残っている。ポケットの中のiPhoneが摩擦で勝手にリダイヤルしたのだろう。

「なんかあったか思て」「いやいや大丈夫、なんもないよ」

わずかで会話は途切れ、電話を切った。

親孝行って何?って考える

 母と電話をするたびに、浮かぶ歌。松ちゃんが作詞、マッキーが作曲、浜ちゃんが歌った名曲「チキンライス」のジャケットは、母校でもある尼崎市立潮小学校の校門で撮影されている。

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あまがさきキューズモールに用事があったので、散歩がてらJR尼崎駅北地区を歩く。ダウンタウン・ヒストリーの聖地(笑)とされているスポットがいまなお存在しているのがこの辺りなのだ。

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今や住みやすい街ランキング上位にランクインするこの周辺は、かつて彼らが笑いにしていた所謂「アマ」の風景から一変した。

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GEISHA GIRLSの「Blow Your Mind - 森オッサン チョイチョイ キリキリまい」でもラップされた(笑)スポット。潮江デパート(現フレッシュコア)周辺。

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神崎病院、ヤナギ屋の学生服、金蓮寺。潮江公園は、かつての松本家愛犬「ペル」の散歩スポットとして有名なのだった笑

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そして御影屋(!)

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同級生でもあり、ダウンタウンのブレインと目された「たかっちゃん」こと放送作家高須光聖さんのご実家が営まれている果物店。ここのフルーツ、最高に美味しいのです。

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MBS毎日放送の番組「ごぶごぶ」で、閉まっていたシャッターを浜ちゃんが蹴ったwエピソードで再び話題になった、アマになくてはならぬ重要文化財「山里ホルモン」。営業前の蹴られたシャッター笑。

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「昭和温泉」はかつて彼らが通っていた銭湯。現在もレトロ温泉として営業中。今日は休みでした。

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阪急オアシス尼崎潮江店のエスカレーター付近は、TBS「水曜日のダウンタウン」で、”歴史的な場所意外と近くにある説” で証明された浜ちゃんの生家の場所(笑)

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松ちゃんが通っていたとされる理髪店「アマガサキ」笑。こちらはもう営業していない。

秋子母はある日、「尼崎も変わります...」と書いたメッセージに工事現場写真を添付し、息子松本人志に送ったという。

この地で過ごした青春期が無ければ生まれなかったであろう、あの特殊な「笑い」。その「笑い」の原風景は、今もまだ陽炎のように残存している。

木曜日を左に曲がる

午前中のゲリラ雷雨が嘘のように外が明るくなった。明日、休みを頂いた私はもっと明るくなった。胸いっぱいの解放感が早めの退勤を促す。ターンレフト・ターンライト。右に曲がればいつもの帰路だが、今日は左に曲がり、買い物にでも行こう。

阪急オアシス三宮店のサラダボウル専門店「WithGreen」で、“ハーブチキンと彩り野菜のサラダ“を買う。ハニーミルクのドレッシングとの組み合わせが最高なのである。

ルビアン・ルミネールで、ライ麦パンとバナナブレッド。明日の幸せな朝のために、ルバーブのジャムはもうスタンばっている。

上島珈琲店で黒糖ミルク珈琲を飲んで、もう満足。なのだが、三宮は人、人、人。さすがにデパ地下は入場制限しているものの、このたびも緊急事態らしきエリアは何処にも見つからない。逃げるようにいつもの帰路に合流する。

 「しかし、よく書いたよね、こんなものを…」と北村薫に言わしめた、とっておきの名短篇! 穂村弘「愛の暴走族」、川上弘美「運命の恋人」、戸板康二「酒井妙子のリボン」、深沢七郎「絢爛の椅子」、松本清張「電筆」、大岡昇平「サッコとヴァンゼッティ」、北杜夫「異形」など、目利き二人を唸らせた短篇が勢揃い。

 そう、あらためてウンウン唸らされる。傑作揃いの短編集、ちくま「名短編」シリーズの中でもコレは圧巻だ。このコンパイルのセンス!「しかし、よく集めたよね、こんなものを…」なのである。

収録作品に共通する後味の悪い読後感は、すぐに快楽へと変質する。塚本邦雄「壹越」の白色に統一される文体の美しさ。やみつき必死のお馴染み深沢七郎オフビート劇。

なかでもレア作品、岡田睦「悪魔」!主人公の女教師は、妙な行動を取り続ける男子生徒が気になりだし・・・優しい文体と終始救われぬ現実とのギャップが切なすぎる。そして衝撃のラスト!

宮部 最近「奇妙な味」って言わなくなりましたね。昭和四十年代は特集の柱になってたのに。

北村 江戸川乱歩以来の伝統でね。

江戸川乱歩が定義したとされる「奇妙な味」については以下のサイトが詳しい。

pdmagazine.jp

ショックはいらない、ただゾワゾワしたい、をお求めのアナタ、「とっておき名短編」を是非。