短編の断片 #1
交尾したまま浮遊する二匹の蜻蛉。カラカラに干からびたカナブンとミミズの死骸。なぜかその光景で梅雨明けを実感する。ギンギンギラギラの夏なんです。夏なんだし、と歌ったのは星野みちるさんでしたね。
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冷房の効いた部屋、ふんわりソファーで、アイスティーを時々口につけながら、時を忘れ読書が出来たら何とシアワセなのだろう。じっくり長編小説に浸るのもいいが、気分転換のための音楽、TV、スマホ、昼寝を考慮すると、いつも短編小説を手にとってしまう。
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これはこつこつ集めた名短編アンソロジィ。
稀代の名コンパイラーが繋ぐ極上のプレイリスト、セトリ。
短編のカフェ・アプレミディというかフリー・ソウルというか。喫茶ロックというかソフトロック・ドライヴィンというか。NOWというかMAX BESTというか。
自分はオムニバスが大好き。
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では節操のない短編レヴューを。
ジュンバ・ラヒリ 「ピルザダさんが食事に来たころ」 (停電の夜に 収録)
インド系二世アメリカ人である十歳の「わたし」は我が家をたびたび訪れるようになったパキスタン人のピルザダさんからいつも目が離せない。戦禍に残してきた娘たちを、毎夜ニュースを観て憂う氏をただ祈るしか出来ぬ「わたし」。
この夜、わたしはバスルームへ行ったものの、歯を磨く真似をしただけだった。磨いたらお祈りまで口から流れてしまいそうな気がした。
この短編集の原書タイトルは「 Interpreter of Maladies 」なのだが翻訳物は「停電の夜に」が採用されている。
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沢野ひとし「クジラの夏」(花嫁の指輪 収録)
タイトルから想起される、ネイチャーな夏の記録、のイメージを大きく裏切る、ミステリアスな女性に翻弄される家庭持つ男の話。酒を好むその相手女性だが、酒の影響だけでは済まされぬ魂の崩壊描写が凄まじい。そして息を呑むラストのサイレンス。溜め息しか出なかった。
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この夏も、最高の短編に出会えるはず。