また何かそして別の聴くもの

だらだら坂から - 日々のヴァラエティ・ブック

短編の断片 #3

今日も晴れ。セミのユニゾン・コーラスもSMAPを超え、46グループなみの分厚さになってきた。世間は四連休だが、ぽつぽつ仕事に出る。7月はもう終わろうとしているが引き続き呑気にいこう。僕の人生にも事件は起きない。
オリンピックは昨晩、無事に開会式が終わった。FPM田中さん、代役をしっかり果たしましたね。良かったな。台風が気になるものの、なんとか最終日まで駆け抜けるのだろう。
オリンピック関連では、じぶんもそうだが、90年代を渋谷系カルチャーで青春のように暮らした人たちは一様に辛そう。SNSを見るのも疲れてきました。バッド・ムーン・ライジング。
森 絵都「漁師の愛人」(漁師の愛人 収録)

愛人関係にある長尾が、会社の倒産を期に、郷里で漁師への転身を決意した。流されるように一緒に移り住むことになった紗江だが、地元の女たちから放たれる侮蔑をひとり背中で受け止めるしかなかった。

「まさか、こんなことになるとは思わんかったけぇ」
「嘘。ここで生まれ育ったんなら、こうなるのは見えてたはずじゃない」

一見すると救いのない舞台設定ではあるが、主人公の仕事「譜面起こし」の特異性と、妙に明るい「本妻」が語る都市部の暮らしが、物語の土着化にブレーキをかけている。

とはいえ、漁師町で生まれ育ったじぶんには、ひりひりするようなワードが襲いかかるのだった。

時化、底引き漁、サワラとハマチとウシノシタ、合羽、師匠、鬱病更年期障害、競り場、漁業組合、波止場、発泡スチロール、喜寿祝い、お勝手、紫の座布団を敷いた水晶玉。

森絵都さんは、3.11がきっかけで、漁師という職業に惹かれていったのだという。

我が故郷に話を変えると、じぶんが小さい頃は漁業が町の経済を支え、同級生の父親の六割は漁師だったのではないか。それ故、町の文化や風習もワイルドだった。

泳げるようになれ。

小学校に上がる頃になると、海沿いに住む男の子たちは磯だまりに放り投げられた。そんな父親や近所の大人たちが怖くて堪らなかった。学校のクラスに泳げない者はひとりもいなかった。

放り投げられる瞬間の恐怖、父親の上腕、なによりその表情を、今もはっきりと記憶している。いや、経年により書き換えられた記憶なのかもしれない。